投稿者を「累計何件書いているか」で分けてみる
商業口コミ 70,453 件 を、書き手の累計投稿数で 5 つのバケットに分けて並べた結果がこれ。
| 累計投稿数 | 件数 | ★5 率 | ★1〜3 率 |
|---|---|---|---|
| 1(観察期間中、その投稿者の口コミは 1 件のみ) | 10,816 | 79.0% | 2.7% |
| 2 〜 5 件 | 12,219 | 73.6% | 7.8% |
| 6 〜 20 件 | 18,364 | 75.9% | 7.5% |
| 21 〜 100 件 | 17,581 | 71.2% | 8.9% |
| 100 件超 | 11,473 | 71.5% | 8.8% |
数字を眺めて、まず気づくのは「1 件しか書いていない人」の列だけがちょっと違うことだ。
- ★5 率:79.0%(他の 4 バケットは 71〜76% に収まっている)
- ★1〜3 率:2.7%(他は 7〜9%)
★5 率は 7 ポイント高く、★1〜3 率は 3 倍以上低い。100 件超のヘビー投稿者と並べると、線がきれいに分かれる。
一番大きな差は、低評価を書くか書かないか
★5 率の差は 79.0% と 71.5% で 7.5 ポイント。これも小さくはない。ただ、人の感想は 5 寄りに偏るというのが 第 1 話 で見た大前提だから、★5 率だけ並べてもピンと来ないかもしれない。
代わりに ★1〜3 率(低評価を書いた率)を見ると、構造が立ち上がる。
- 初投稿者:2.7% 100 人に 3 人しか低評価を書かない
- 100 件超:8.8% 100 人に 9 人が低評価を書く
3 倍以上の差だ。100 件以上書く人と、1 回しか書いていない人とで、「文句を書く確率」がここまで違う。
初投稿者の口コミからは、不満が落ちている。
なぜ初投稿者はベタ褒めになるのか
観察記録を眺めてみると、いくつかの力が同時に働いていると見える。
1. はじめての高揚
最初の体験は、それだけで肯定の側に寄る。書き手の頭の中で「悪くなかった」より「良かった」のほうへ自然と倒れる。これは風俗に限った話じゃなくて、初めての映画・初めての旅行・初めて買った車のレビュー でも起きる。
2. 書く人は、満足した人
期待外れの体験をした書き手は、口コミを書く気力そのものを失う。第 1 話で見た「もう関わりたくない」が先に来る現象だ。これが起きると、初投稿の場には、満足した人だけが残る。書かれていないものは、こちらからは観察できない。
3. 「ふつう」のラインを知らない
初めて行った人は、比較する対象を持っていない。「ここの接客はその辺の店と比べて〜」という言い方ができるのは、何店か行った人だけ。ふつうのラインを持っていない書き手は、目の前の体験を高めに評価しがち になる。
3 店ほど行ってみると、書き手の中で「★3 の接客」「★4 の接客」「★5 の接客」の感覚が立ち上がってくる。経験量が増えると、ベースラインが下がる。100 件超のヘビー投稿者で ★5 率が 71% に落ち着くのは、書き手の中で 基準値そのものが厳しくなった 結果と読める。
4. 書きながら自分を納得させる
口コミを書く行為そのものが、自分の選択を肯定する作業になる側面もある。書きながら「あれは良かったな」「あの瞬間は嬉しかったな」と思い出すと、評価は ★5 の側へ寄っていく。
この 4 つはバラバラに動いているわけじゃなく、全部が重なって、初投稿者の ★5 率を 79% にまで押し上げている。
だから「初投稿者=サクラ」とは言わない
数字だけ見ると「初投稿者の口コミはみんなウソ」と読みたくなるけど、観察してきた中では、その読み方は雑すぎる。
理由は単純で、初投稿者の中にも、本当に良い体験をした人が大勢いる からだ。仮説 1〜4 は、書き手が嘘をついている話ではなくて、書ける状況に置かれた書き手の評価が、自然と甘くなる構造 の話だ。
「初投稿者の口コミは捨てアカだ、ステマだ」と言ってしまうと、本当に良い店をはじめて見つけて、はじめて口コミを書いた人を、まとめて疑うことになる。それは観察者の仕事じゃない。
代わりに渡したいのは、読み手の側の補正 だ。
持ち帰れる発明 ── 投稿者経験曲線
その口コミを書いた人が、累計で何件書いているかを見る。投稿数の多い人ほど、★1〜3 を書く確率が 3 倍以上高い。
商業口コミサイトの多くは、ハンドル名のところに「総投稿数:N 件」のような表記を出している。そこを見るだけで、その口コミに どれくらい補正をかけて読むか が決まる。実用的には、店舗ページを開いたら次の順番で目を動かす。
- ★ の分布の形を見る(第 1 話の道具)
- 個別の口コミを開く前に、書き手の累計投稿数だけを横目で確認
- 累計 1 〜 5 件の書き手は、軽く読み流す
- 累計 20 件以上の書き手の口コミは、丁寧に読む
第 1 話で渡した「★5 はベースライン」と組み合わせると、口コミにかかる時間はぐっと短くなり、拾える情報量はむしろ増える。
書き手の母集団は、媒体の 投稿動機の設計 でも動く。投稿に金銭的な報酬を出している投稿集約型サイト(ホンネレポ は投稿で Amazon ギフトが配られる)と、報酬なしで投稿を集めている投稿サイト(仁義なき風俗体験ブログ)では、初回投稿者の母集団そのものが別物になる。本記事の数字は商業サイト 1 つに絞った話だが、同じ 投稿者経験曲線 の "形" は媒体ごとに違って立つ。
累計投稿数 1 の口コミは、信頼度を半分くらいに割り引いて読む。100 件超の口コミは、文章のクセさえ把握できれば、相当な情報密度で読める。── この読み替えを「投稿者経験曲線」と呼ぶことにする。