形を並べてみる
商業口コミ 70,453 件(5 段階評価)と、個人運営の口コミサイト 10,842 件(100 点満点評価)を、評価の分布で並べる。
商業口コミ:
- ★5 に 74.1% が積まれる
- ★4 と合わせて 92.6%
- ★1〜3 を全部足しても 7.4%
→ ★5 にしか積まれない 1 山。第 1 話 で見た「実質 1 段階評価」がそのまま視覚化された形だ。
個人口コミ:
- 80-89 点に 49.7% が集まる
- 70-79 点(21.9%)と 90-94 点(17.0%)が両側に裾を引く
- 95-100 点で 4.0%(うち 100 点満点はわずか 7 件)
→ 80 点台にモードを持つ釣鐘型。低いほうも 50-69 点に 7.4% 残っていて、評価が 広く分布する。
1 山か、釣鐘か。
100 点満点の形は、釣鐘になる
個人口コミの分布で目を引くのは、100 点満点が 7 件しかない ことだ。10,842 件のうち、満点を付けた書き手は 0.06% にしかいない。
これは「個人サイトは満足体験が少ない」ということではなくて、書き手の側に「満点」を付ける動機の壁がある ということだ。100 点を選ぶには「ここから先がない」と認める必要がある。書き手が「もう少し良いことがあるかもしれない」と思う限り、100 点は付かない。
その壁が機能している証拠として、90-94 点と 95 点以上で大きな段差が立つ。90-94 点は 17.0%、95 点以上は 4.0%。書き手は 90 点台前半までは出すが、95 点を越えるところで急に手が止まる。
商業口コミの ★5 にこの壁はない。「★5 か ★4 か」で迷ったら、書き手は迷わず ★5 を選ぶ。5 段階の上限と、100 点満点の上限では、書き手の使い方が完全に違う。
「ふるい」としての性能が違う
評価の散らばり方は、その媒体が 書き手の感想を、どれくらい細かく区別できるか を示している。
- 商業口コミ:5 段階のうち機能している段は実質 1 段で、ふるい目はほとんど効いていない
- 個人口コミ:100 点満点で 5〜10 点刻みで書き分けている。同じ 80 点でも、85 点と 80 点は書き手の中で別の評価で、ふるい目が細かく効いている
「どちらが正しい評価か」ではない。それぞれの媒体に合った "目盛り" が、書き手の中で動いている 結果として、こういう形になる。
分布の形を、媒体の性格として読む
口コミ媒体に行ったら、まず ★ や点数の分布の形 を見る。
- ★5 が 7 割を超える媒体:商業口コミと同じ構造。★5 はベースライン として読む(第 1 話の道具)
- 上位の評価が 30〜50% に収まる媒体:書き手が評価を分散させている。評価の数字をそのまま重みとして読める
- 100 点満点で 100 点が極端に少ない媒体:書き手の上限の壁が働いている。90 点台後半の評価は希少な情報源
商業口コミと個人口コミは、同じ「口コミ」という言葉を共有しているけれど、媒体としての構造が違う。読む側の構えを、媒体ごとに変える のが第 10 話で渡したい道具だ。
持ち帰れる発明 ── 分布の形を見る
商業口コミに慣れた読み手は、個人口コミに行ったときに「なぜ 100 点が少ないんだろう」「なぜ 80 点台が多いんだろう」と感じることがある。それは、分布の形を読み替えていない状態だ。形が違えば、★ や点数の "意味" も違う。媒体に着いたら、まず ★/点数のヒストグラムを心で描く ── それを習慣にする。
新しい媒体に行ったら、まず分布の形を見る。1 山型ならその山がベースライン、釣鐘型なら両端の裾の濃度がふるい目を示す。満点が極端に少ない媒体では、上限近くの評価が希少な情報源になる。形が違えば、点数の "意味" も違う。
同じ "投稿集約型" でも、書き手の母集団が変われば形は変わる。商業サイトの忖度と高額課金を批判して立ち上がった月額制の投稿集約型サイト(ホンネレポ)や、「忖度なし」を掲げる投稿集約型ブログ(仁義なき風俗体験ブログ)のように、投稿動機の設計が商業サイトと違う場所では、本記事で並べた 1 山型と釣鐘型のあいだに、また別の形が現れる可能性が高い。読みに行く媒体ごとに、形を見るクセを持ちたい。
本記事で並べた個人口コミの "釣鐘型" の中身は、属性別・地域別に切ると、また別の構造が見えてくる。観察ノート A ではパネル写真と実物の一致度を 8 段階の婉曲表現で並べ、観察ノート C では 19 エリアのハズレ率を、観察ノート D ではカップ別の満足度と別人率を見ている。本編 11 話と並べて読むと、釣鐘型の "解像度" がもう一段細かくなる。